相続の基礎知識

「相続」とは?

法律上、子など一定の者が親などの死亡の際に、財産を、当然に、包括的に承継するもの。
1.すべての人に発生するもの
財産が多いか少ないか関係なく相続税を納めている人は、わずか5パーセント

2.死亡のときだけ相続が始まる
隠居とかの家督相続はない

3.なんらの手続きも意思表示も無しに、死ぬ人の意思にかかわらず生じるもの
cf 私的自治

4.財産だけ相続する
cf 家名、祭祀

5.相続したくないときは
放棄、限定承認

6.一括して引き継ぐ
不動産、預貯金、借金など全体に対して何割とかという、相続自体は観念的なもの。
その後、その割合にしたがって具体的に分割する。(具体的な分け方) だから、借金は相続人皆に請求できる。

7.財産を承継するというよりも権利義務の地位を承継するもの
財産関係の上では、同一人である cf 一身専属権 扶養請求権

 誰が相続するの?

相続できる者は法律で決まっている。
1.相続順位
確定相続(第1順位)  配偶者
第1順位  子及びその代襲相続人たる直系卑属
第2順位  直系尊属
第3順位  兄弟姉妹及びその代襲相続人たる甥・姪

2.相続欠格
相続できる者でも、何の手続きも無く当然に相続権を失う制度。

  • 被相続人や先順位又は同順位相続人を殺して、または殺そうとして刑を受けた者
  • 被相続人が殺されたことを知りながら、それを告発・告訴しなかった者
  • 詐欺、脅迫により被相続人が遺言したり、遺言の取消し、変更するのを妨げた者
  • 詐欺、脅迫により被相続人に遺言させたり、遺言の取消し、変更をさせた者
  • 被相続人の遺言を偽造・変造・破棄・隠匿した者

3.廃除
相続できる者でも、生前または遺言により、廃除の申立を家庭裁判所にし、認められれば、相続権を奪うことができる。

  • 被相続人に対し、虐待や重大な侮辱を与えたとき
  • 相続人に著しい非行があったとき

4.相続人が複数いる場合の法定相続割合

配偶者と子が複数いる場合
配偶者 2分の1
2分の1(子が複数いる場合は人数で等分。また、子複数いる場合の認知された子(非嫡出子)は摘出子の2分の1)
配偶者と直系尊属
配偶者 3分の2
直系尊属 3分の1(直系尊属複数いる場合は人数で等分)
配偶者と兄弟姉妹
配偶者 4分の3
兄弟姉妹 4分の1(兄弟姉妹が複数いる場合は人数で等分。異母兄弟(半血)は、両血の2分の1)

5.代襲相続とは
子や兄弟姉妹の一人が既に(先に)亡くなっている場合や相続欠格や廃除された場合に、その子や兄弟姉妹の子や孫が代わって相続すること。但し、兄弟姉妹の場合は、その子である 甥・姪まで)

6.参考例

配偶者のみ 全部
子1人(配偶者無し) 全部
子2人(配偶者無し) 子A(2分の1)・子B(2分の1)
父又は母のみ(配偶者・子無し)
全部
父及び母のみ(配偶者・子無し) 父(2分の1) 母(2分の1)
兄弟姉妹1人のみ(配偶者・子・親無し 全部
兄弟姉妹2人(配偶者・子・親無し) 各2分の1

配偶者(4分の2) 子A(4分の1) 子B(4分の1)
配偶者(4分の2) 実子A(4分の1) 養子B(4分の1)
配偶者(8分の4) 子Aの子C(8分の1) 子Aの子D(8分の1) 子B(8分の2)
配偶者(6分の3) 実子A(6分の2) 認知子B(6分の1)
配偶者(6分の4) 父(6分の1) 母(6分の1)
配偶者(8分の6) 兄(8分の1) 妹(8分の1)
配偶者(16分の12) 兄の子A(16分の1) 兄の子B(16分の1) 妹(16分の2)

遺言書があるときの相続分

遺言による相続人に対する相続割合について、被相続人の希望する相続分の割合を指定することは自由です。しかし、兄弟姉妹以外の相続人には遺留分というものがあり、この遺留分は遺言によっても減らすことはできません。

<遺留分割合>
配偶者と子 法定相続割合の2分の1(各々4分の1)
配偶者と父母 法定相続割合の2分の1(配偶者 6分の2・父母 6分の1)
配偶者と兄弟姉妹 (配偶者 2分の1・兄弟姉妹 遺留分無し)
父母のみ 全財産の3分の1
兄弟姉妹のみ 遺留分無し

遺留分を超える財産を特定の者に相続させるとか遺贈するとかの遺言書があったときは、遺留分を主張する場合は、遺留分減殺請求を行う必要があります。 遺留分を侵害されたことを知ったときから1年以内もしくは知らなくても相続開始から10年以内に行使する必要があります。

相続したくない時は?

1.相続放棄
以上の順位に従って相続人となった者は、相続したくなければ、自由に相続放棄できます。
例えば、相続とは借金も併せて引き継ぎますので、借金の方が多いと思えば相続放棄をすればよいことになります。
相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述する方法により行います。放棄が成立すれば、その者は、はじめから相続人でなかったことになり、その者がいないと考えて相続順位や相続分を決定することになります。

2.限定承認
放棄をするほどではないが、プラスの相続財産の限度でマイナスの相続財産の借金などを返済し、プラスの相続財産を超えるマイナスの借金などについては、責任は負わないという制度です。
相続放棄と同じく3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述する方法により行います。但し、相続放棄と違って、相続人全員で申し立てしなければなりません。

3.単純承認
但し、相続放棄や限定承認する場合でも、相続財産を一部でも隠したり、使ったりすると、相続放棄や限定承認が認められず、相続を全部承認(単純承認)したことになるので注意が必要です。

相続財産とは

法律上の本来の相続財産と相続税課税対象上の相続財産とは範囲が違う。
1.本来の相続財産
<積極財産>・・・プラスの財産
不動産(土地・家屋・借地権など)
金融資産(現金・預貯金・有価証券など)
事業用財産(家具・什器・自動車・減価償却資産・棚卸資産・売掛金など)
宝石・書画骨董品など
貸付金・会員権など

<消極財産>
借入金・住宅ローン・クレジットカードなどの未払い金・買掛金など保証債務

2.みなし相続財産
本来の相続財産でないが相続税の課税対象となる財産。
生命保険金(但し、被相続人が被保険者及び保険料負担者で、受取人が被相続人本人とか相続人となっていれば、本来の相続財産になります。受取人が妻とか子Aとか特定されていれば、その者の財産となります)
生命保険契約に関する権利
定期金(年金等)に関する権利など
退職手当金
相続開始前3年以内の贈与財産

相続時精算課税制度に係る贈与財産みなし相続財産
本来の相続財産でないが相続税の課税対象となる財産。
生命保険金(但し、被相続人が被保険者及び保険料負担者で、受取人が被相続人本人とか相続人となっていれば、本来の相続財産になります。受取人が妻とか子 Aとか特定されていれば、その者の財産となります)
生命保険契約に関する権利
定期金(年金等)に関する権利など
退職手当金
相続開始前3年以内の贈与財産
相続時精算課税制度に係る贈与財産

相続手続きについて

相続の開始(被相続人の死亡)
通夜・葬儀

 

死亡届の提出(7日以内)
初七日・口座凍結

 

遺言書有無の確認
四十九日・香典返し

 

相続人調査・確定
葬儀費用の領収書など整理

 

相続財産調査(財産目録作成)

 

相続放棄・限定承認の申述(知ったときから3ヶ月)

 

準確定申告(相続開始より4ヶ月以内)

 

相続財産の評価
概算税額の把握

 

遺産分割協議(協議不成立の場合、調停・審判)
借金など、銀行などの承諾

 

遺産分割協議書の作成

 

遺産分割(分配)
不動産名義変更・預貯金解約

 

相続税の申告・納付(相続開始日の翌日から10ヶ月以内)

1.死亡届の提出(死亡後7日以内)
<届出先>
被相続人の本籍地または死亡地もしくは届出人の住所地のいずれか市区町村役場

<必要書類>
死亡診断書、(死亡診断書は生命保険金・遺族年金の請求にも必要)
届出人の印鑑
その他・・・健康保険証・介護保険証・国民年金手帳・老人医療受給者証など同時に返還を求められることあり

2.預貯金など口座凍結
被相続人が取引していた銀行などに死亡届を提出したり、死亡の事実を知ると口座は凍結され、引き出し・解約・口座振替ができなくなります。
預金を引き出す必要が生じた場合、共同相続人全員の連署による払い戻し請求が必要となります。

3.日常生活に関する名義変更
電気・ガス・水道・NHKは電話で名義変更の手続きが可能です。

4.遺言書の有無・開封
遺言書があるか否か、家捜しして必ず確認してください。なお、単なる自筆証書言書ではなく、公正証書遺言書の存否は最寄の公証役場で、全国の公証役場で原本を保管しているか否か確認できます。
自筆証書遺言書が発見されましたら、勝手に封を開けてはいけません。速やかに被相続人の最後の住所地の管轄の家庭裁判所に「検認の手続き」をとる必要があります。(公正証書遺言書は不要)
検認は遺言書の有効無効の判断をするのではなく、遺言書の存在を明確にし、被相続人が書いたものか(偽造・変造されていないか)相続人が家庭裁判所に集まって確認する手続きです。

<必要書類>
検認申立書
申立人の戸籍謄本
相続人全員の戸籍謄本
遺言者(被相続人)の除籍謄本・改製原戸籍謄本など(ほぼ出生時から死亡時迄)なお、遺言書原本は、指定された検認日当日に持参
遺言書が法律で定められた要式に沿っていれば、遺言内容が優先されます。遺言書に遺言執行者が指定されている場合、その者が遺言執行に必要な一切の権限を持ちます。
執行者の指定がなければ、相続人が協力して遺言どおりに執行するか必要があれば家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらうこともできます。

5.相続人の調査・確定
相続人が誰であるかを確定し、証明するためにも、戸籍謄本を取り寄せる調査をする必要があります。前妻の子や認知した子がいるかも知れません。一部の相続人を除いた遺産分割協議は無効ですので、注意が必要です。
具体的には、被相続人の死亡の除籍謄本から遡って、ほぼ出生の時までの全ての除籍謄本・改製原戸籍謄本を取得して確認します。

<請求先>
それぞれの本籍地のある市区町村役場

<請求方法>
直接または郵送(郵送の場合は手数料を現金ではなく郵便局発行の定額小為替を同封)
上記と併せて「相続を証する書面」とは以下のとおりとなります。
被相続人のほぼ出生から死亡までを証する全ての除籍謄本・改製原戸籍謄本
被相続人の除住民票
相続人の戸籍謄本
相続人の住民票
<相続人に未成年者や認知症の方がいる場合>
遺産分割協議にあたって、「未成年者」の場合は家庭裁判所で特別代理人の選任が必要となる場合があります。「認知症の方」は、成年後見の申し立てをし、後見人などの選任が必要です。

6.相続人の調査・確定
調査にあたり、被相続人の資産と負債の全てを洗い出す作業が必要です。財産名義の如何にかかわらず、被相続人が実質的に所有していた財産を把握する必要があります。(名義借りなど)

<預貯金>
銀行などの金融機関から、死亡日現在の残高証明書を発行してもらいます。

<不動産>
権利証や不動産所在地の市区町村役場で名寄せ帳を取り寄せ、登記所(法務局)で「登記事項証明書」(登記簿謄本)を取得します。
併せて、不動産所在地の市区町村役場で「固定資産評価証明書」も取得します。
土地・家屋の名義変更(相続による所有権移転登記)の「登録免許税」は、固定資産評価額に基づいて計算します。(固定資産評価額の1000分の4)
「相続税」の計算にあたっては、土地は税務署の「路線価」、家屋は「固定資産評価額」に基づいて計算しますので、土地について路線価(毎年8月頃発表)を税務署か国税庁のホームページで調べておきます。

<株式・有価証券>
証券を確認するか、被相続人が取引のあった証券会社に確認します。「株式」の評価は上場銘柄と非上場銘柄によって評価方法が違います。
上場株式の場合は預貯金などと同様に相続開始日の終値を評価額とするのが妥当ですが、株価は経済状況の変動などを受けやすいため、評価額を決める際にある程度の幅がもうけられています。
次の4つのうちからもっとも低い価格で評価します。

1. 相続開始日の終値
2. 相続開始日の属する月の毎日の終値の月平均額
3. 相続開始日の前月の毎日の終値の月平均額
4. 相続開始日の前々月の毎日の終値の月平均額

また、非上場株の評価は市場で取引がなされていない分、困難になります。評価方法は非常に複雑なので、税理士など専門家に相談するのがよいでしょう。

7.準確定申告
被相続人に事業収入や不動産収入などの申告すべき所得がある場合などは、相続人が代わって「所得税の準確定申告」をする必要があります。
被相続人が事業を行っていた場合、併せて「個人事業開廃業等届出書」および消費税の課税事業者であった場合は「消費税の準確定申告」もする必要があります。

8.遺産分割協議
具体的に、相続人の誰が、どの財産を引き継ぐのかを、相続人全員の話し合いで決めることです。相続人のうち一人でも欠けた遺産分割協議は無効です。
また、相続人に「未成年者」がいる場合で親権者も相続人である場合は利益相反取引に該当しますので、未成年者について家庭裁判所に「特別代理人の選任の申立」をし、特別代理人が未成年者に代わって遺産分割協議をします。(約1ヶ月かかる)
「認知症の方」は判断する意思がないので、家庭裁判所に「後見開始などの申立」をして、後見人などが家庭裁判所に遺産分割内容も含め許可をもらって代わって遺産分割協議をします。(約4ヶ月かかる)
「行方不明者」がいる場合は、その者について、家庭裁判所に対し「不在者財産管理人の選任の申立」をして、不在者財産管理人が家庭裁判所に遺産分割内容も含め許可をもらって遺産分割協議をします。(約7ヶ月)
遺産の分割は、遺言にあればそれに従って分割し(指定分割)、遺言に主だった財産の分割方法しかなく、全ての財産について分割方法が指定されていない場合もあるので、この場合も具体的な分け方について遺産分割協議が必要となります。

<遺産分割の基準>
遺産は現金・預貯金以外にも土地や家屋があったり財産の性質が違いますし、各人の事情も違いますので、その点も踏まえて相続人全員が納得できるよう分割する必要があります。
遺言書で遺産分割の方法の指定がされていれば、それに従う。
各人の事情を考慮する。
財産の性質を考慮する。
生前に被相続人の財産の維持や増加に特別に寄与した者には、その寄与に見合う配慮
生前に被相続人から特別に受益がある場合は、それも考慮
法定相続割合は一つの基準であるが、こだわり過ぎない。
相続税も考慮
アパートなどの建設資金の借り入れがあってその家屋に抵当権が設定されている場合、
その借金と家屋は誰が相続するかは、第3者である銀行の承諾がいる。

<遺産分割の方法>
(現物分割)
遺産のうちの個々の財産をそのまま分割する方法

(換価分割)
現物分割ができないか、現物分割するとその財産の価値を著しく損なうとかの場合、 財産を売却し金銭に換価して分割する方法

(代償分割)
相続人の一人が財産を取得し、その代償として他の相続人に対価を支払う方法

<遺産分割協議書の作成>
合意できれば、遺産分割協議書を作成します。不動産の名義変更(相続による所有権移転登記)や相続税の特例の適用を受けようとする場合にも必要ですし、後日の紛争を避ける意味でも書面にしておく必要があるでしょう。
要式は特に決まっていませんが、署名と実印による押印(印鑑証明書添付)が必要です。

<寄与分とは?>
生前に被相続人の財産の維持や増加に特別に寄与した相続人に与えられるものです。
寄与分は遺産分割協議で相続人同士の話し合いで決めますが、どのように決めてもかまいません。
特にこの部分が寄与分と決める必要もなく、遺産分割協議と別に考慮する必要もありません。
寄与分が認められる行為は以下のとおりです。
事業に関する労務の提供
事業に対する財産上の給付
被相続人の病気の看護 など

<特別受益とは?>
被相続人から、生前に家の購入資金や結婚資金をもらったとかの場合です。以下のようなものがあります。
生計の資本として受けた贈与・・・住宅資金・学費 など
婚姻・養子縁組のために受けた贈与・・・持参金・新居 など

<遺産分割協議がまとまらない時>
家庭裁判所での調停・審判において遺産分割協議をします。

<相続税申告期限までに遺産分割協議がまとまらないデメリット>
配偶者の税額軽減の適用が受けられない。
小規模宅地等の課税の特例の適用が受けられない など


9.遺産分割(分配)
遺産分割協議書を作成しましたら、その内容に従い、それぞれの財産を引き継いだ者の名義に変更したり、解約して現金を分配したりします。
期限は決まっていませんが、トラブルの基になりますので、できるだけ早く手続きしたほうがよろしいかと思います。
不動産については、特に名義変更(相続による所有権移転登記)をしないと第3者に売却できませんし、次の相続が起きますと処理が面倒になります。

10.相続税はかかるの?
遺産を相続した人の全てが相続税を納めなければならないわけでありません。正味遺産(課税価格)が基礎控除以内であれば、相続税の申告も納税の必要もありません。

<基礎控除額>
3,000万円+法定相続人の数×600万円
例 相続人3人=4,800万円

<正味遺産(課税価格)>
本来の相続財産+みなし相続財産-借金など債務-葬儀費用-非課税財産+相続開始前3年以内の贈与財産+相続時精算課税対象の贈与財産

みなし相続財産 生命保険金・退職金など(相続人の数×500万円の控除有り)

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